ぼくは、いつもの駅からいつものように電車に乗り込んだ。車内はあまりこんではおらず、ぼくはやおらシートの真ん中に座った。
目の前には40代のおばさんが一人。風呂敷に包まれた右に四角い箱を抱えている。別におかしな所は何一つ無かったけれど、妙にその箱が気になったのを覚えている。
次の駅に着いた。
男女二人が乗り込んできて、ぼくの左側に座った。とても仲が良さそうだったが、女の方が男と比べてとても幼かった。カップルとも兄妹とともとれる感じだった。
車内に入るなり、先のおばさんと男女が会釈を交わし、笑顔で軽く話をしはじめた。カナル型イヤホンをはめ込んでいる僕には会話の内容が聞こえなかったので、偶然知り合いに会い挨拶をしていたのかなと思っていた。話が聞きたかったけれど、イヤホンを外すのも変なのでそのままにしておいた。
次の駅に着いた。
右側のドアからジャージに革靴の男が乗り込んできた。驚いたことに、この男もおばさんに会釈をした。くちが動いていたので、挨拶もしていたかもしれない。おとこはそのまま、座席について、スポーツ新聞を読み出した。
次の駅に着いた。そろそろ終点が近い。
20代半ばに見える男二人組が乗り込んできた。二人は僕の真向かいに座った。今回はおばさんへの挨拶こそ無かったものの、一人は腕を組みどっしりと座り、もう一人は何かを探しているように目を細め、あたりをきょろきょろ見回していた。
これら一連の流れに激しい違和感を抱えたぼくは、頭の中を整理して考えた。
そして僕は恐ろしい共通点を見いだした。
それは、皆一様に、何かを期待していて、何かが起こる・起こすのを待っているような、ほほえみをたたえているのだ。
もうイヤホンを外して、話を聞こうとは一切思わなくなっていた。話を聞いたら共犯にされてしまう。
次の駅には着かなかった。
なぜなら僕が電車を降りたからだ。もちろん乗っていた電車と彼らは次の駅、すなわち終点に着いているだろう。
そして終点は「都庁前」。これに意味があるのかどうかも分からないし、何か起こったのかどうかも知らない。