日直地獄

小学校では事件が起きる

エントリ代筆屋

「面白い事は何か無いかしら。」と、ただなんとなくつぶやいて見る。
 つぶやいたところで何かが降って沸いてくるわけでもなく受身では何も起きないということは十分に分かっていた。ただそう呟くしかないほど閉塞感を抱いている事を知っていたので自分の気持ちは理解できた。
 ピンポン。ピンポン。ピンポン。
 チャイムが連続で鳴らされた。何事かと思い部屋から出てみると、すでに小汚いおっさんが玄関に立っていた。
「どうも私こういうものです。以後お見知りおきくださいな。」
 こちらがしゃべりだす前に、名刺を渡され横柄な口調でしゃべりだすおっさんに少々面食らってしまった。いくら暇だからといっていきなりこんなことをされたら流石に対応できない。
「あなたは大学生でしょう?暇でしょう?やること無いでしょう?面白いこと探しているでしょう?」
 図星であったが、ここは学生街であるし、大学生なんてほとんど暇しているはずなのでこんなことは誰でも予想がつく。きっと誰に対してもそう言っているのだろう。それに気づけば、こいつこそ降って沸いた面白いことなのではないかと思えるようになった。(しかし、どうやって家の中に入ったのだろう?)
「ええ、確かに暇ですよ。」「そうでしょうそうでしょう。そしてあなたはネタを探し、ブログに書こうと思ってらっしゃる。」「いやちが…」「そしてあなたはこう言われると、順序が逆だと言うでしょう。ネタを探しにいくのではなくて結果がネタになる。ふと思いついたことや思った事を書いて、その中に少しでも面白い部分や気づかされるものがあったらいいと思ってらっしゃる。しかし自分の文章は大体しょうもないと思っている。だから別に人に見られなくても良いや、そう考えていらっしゃる。そうでしょう?」
 これには少し驚いた。大体俺の思考と合致していた。
「まあそうですが、そこらへんの考え方は人それぞれですよね。」「その考え方がいかんのですよ!」なぜか俺が怒られている。
ぷるぷるしながら続けた。「まずは、面白い面白くないの基準なんて自分で決められるものではないことを知るべきです。ふとしたところ引っかかる人も大勢いるのです。そして、面白い文章を書ける人を羨む気持ちをお捨てなさい、まずはそこからです。それにあなたはすでになかなかよい文章を書いているのですよ。非常に勿体無いのです。」悲しいかな少し勇気付けられてしまった。でもすぐに気がついた。
「ありがとうございます。しかし、私は今に満足しているのです。それにそういわれたところでどうしようもないでしょう。」顔が引きつっているような気がする。
「現状に満足してはいけない。あなたも自分で分かっているはずだ。」さらに口が悪くなってきている。「そこでです。」
「名刺をご覧ください。」すっかり忘れていたが、やっと名刺に目を落とした。エントリ代行屋と書いてある。
「私があなたに代わりエントリを書きます。少し注目されているような話題のエントリを書きます。我が社の人員を使い一気に注目の記事に仕立て上げます。もちろんその人員も1年以上やっているので不審な点は残りませんよ。」「あなたはもっと主張していかなければならない、徒党を組まなければならない、戦略を持たなければならないのです!」「5000円です!」「今なら3000円です。」「さあ。」「さあ!」


 何か犯罪的な行為のように思いながらも、とうとう俺は金を払ってしまった。面白そうという期待ががそれを乗り越えたのだ。


 そのエントリは人気を集めた。どこまでが自演でどこからが他意なのか分からなかった。思ったより快感は小さかった。


 次の日、俺は死んでしまったが、エントリはあげられ続けた。